クラウドセキュリティの標準化:CISベンチマークとゼロトラストの関係

本記事は、CISベンチマークに関する3部構成シリーズの第3回です。
👉 第2回:Windows環境のセキュリティ強化:CISベンチマーク適用のポイント
【本記事】クラウドセキュリティの標準化:CISベンチマークとゼロトラストの関係
クラウド環境におけるCISベンチマークの役割や、ゼロトラストとの関係について解説します。
目次
クラウドセキュリティの標準化:CISベンチマークとゼロトラストの関係

クラウド環境の普及に伴い、セキュリティリスクの管理がこれまで以上に重要になっています。オンプレミス環境と異なり、クラウドはインターネット経由でアクセスできるため、不適切な設定や認証の脆弱性が攻撃者に狙われる可能性が高まります。そのため、標準化されたセキュリティ基準を適用し、リスクを最小限に抑えることが不可欠です。
CIS(Center for Internet Security)ベンチマークは、クラウド環境におけるセキュリティのベストプラクティスを提供し、安全な設定を確立するための指針となります。しかし、CISベンチマークだけでは完全なセキュリティを保証するものではなく、他の対策と組み合わせることが重要です。本記事では、クラウド向けCISベンチマークの概要と、ゼロトラストとの関係、さらにはCISベンチマークの限界と補完すべき対策について詳しく解説します。
1. はじめに
クラウド環境におけるセキュリティリスクとは?
クラウド環境は利便性が高い一方で、適切なセキュリティ対策を講じなければ、データ漏えいや不正アクセスのリスクが増大します。特に、誤ったアクセス制御、設定ミス、認証の脆弱性などは、攻撃者の標的となりやすいポイントです。加えて、クラウドではマルチテナント環境(複数のユーザーが同じ物理リソースを共有)であるため、一つのアカウントの侵害が広範な影響を及ぼす可能性があります。
なぜCISベンチマークがクラウド環境で重要なのか
クラウドのセキュリティを強化するためには、確立されたベストプラクティスに基づく設定が必要です。CISベンチマークは、Azure、AWS、Google Cloudなどの主要クラウド環境に対応した推奨設定を提供し、企業が適切なセキュリティ設定を適用するための指針となります。例えば、アクセス管理の厳格化、不要なポートの閉鎖、ログの監視強化など、クラウド特有のリスクを軽減するための具体的な対策が含まれています。
次のセクションでは、クラウド向けCISベンチマークの概要と適用範囲について詳しく解説します。
2. クラウド向けCISベンチマークとは?

クラウド環境は従来のオンプレミス環境とは異なり、インターネットを介してアクセスされるため、設定のミスや不適切なアクセス管理が即座に重大なセキュリティリスクにつながる可能性があります。そのため、クラウドの特性に適したセキュリティ基準を適用することが重要です。ここでは、クラウド向けCISベンチマークの概要と適用範囲について解説します。
クラウド環境に特化したCISベンチマークの概要
CISベンチマークは、クラウド環境向けにも具体的な推奨設定を提供しており、企業や組織がセキュリティの強化を効率的に進めることができます。クラウド向けのCISベンチマークには以下のような特徴があります。
- クラウドサービスごとのベンチマーク:Azure、AWS、Google Cloudなど、クラウドプラットフォームごとに最適化された推奨設定を提供
- 実装しやすい具体的なガイドライン:アクセス管理、ネットワークセキュリティ、暗号化、監視・ロギングなどの詳細な推奨設定を含む
- 最新の脅威に対応:定期的に更新され、クラウド環境における新たなセキュリティリスクにも対応可能
これにより、クラウドユーザーは、ベストプラクティスに沿ったセキュリティ対策を標準化し、リスクを大幅に低減できます。
適用範囲(Azure, AWS, Googleクラウド など)
CISベンチマークは、主要なクラウドプラットフォームに適用可能で、それぞれの環境に最適化されたベンチマークが提供されています。
- Azure:Azure Security Centerのポリシー設定、アイデンティティ管理(Azure AD)、ネットワーク制御(NSG)、ストレージ暗号化などを含む
- AWS:IAM(Identity and Access Management)、S3バケットのアクセス制御、CloudTrailの監査ログ、EC2のセキュリティ設定など
- Google Cloud:IAMポリシー設定、VPCファイアウォールルール、Cloud Loggingの有効化、データ暗号化のベストプラクティス
このように、各クラウドプラットフォームごとに最適なセキュリティ設定が推奨されており、組織のクラウド運用に合わせて適用することで、セキュリティの強化と標準化が可能になります。
次のセクションでは、CISベンチマークとゼロトラストの関係について詳しく解説します。
3. CISベンチマークとゼロトラストの関係
クラウド環境では、従来の境界型セキュリティでは十分な防御ができなくなり、より柔軟で強固なセキュリティモデルが求められています。その代表的なアプローチがゼロトラストです。ここでは、ゼロトラストの概要とCISベンチマークとの関係、クラウド環境における実践例を解説します。
ゼロトラストとは?(従来の境界型セキュリティとの違い)
ゼロトラストは、「信頼せず、常に検証する」という考え方に基づくセキュリティモデルです。従来の境界型セキュリティ(ネットワーク内部を信頼し、外部を防御するモデル)とは異なり、ネットワーク内部でもアクセスごとに認証・検証を行うことを前提としています。
例えば、VPNやファイアウォールで外部からのアクセスを防御するだけでは不十分であり、内部のユーザーやデバイスも常に検証し、不審なアクセスをブロックする仕組みが必要になります。
CISベンチマークとゼロトラストの共通点
CISベンチマークとゼロトラストは、システムやデータを安全に保つためのベストプラクティスを提供するという点で共通しています。特に以下の要素が共通しています。
- 最小権限の原則(PoLP):CISベンチマークでは、管理者アカウントの制限やアクセス制御の厳格化を推奨し、ゼロトラストと同様に不要なアクセスを排除します。
- 多要素認証(MFA)の適用:ゼロトラストではアクセスごとに認証を求めるため、CISベンチマークのアイデンティティ管理設定と親和性が高いです。
- ログの監視と分析:ゼロトラストではリアルタイムの監視が重要であり、CISベンチマークの推奨するログ管理や監査の強化と一致しています。
クラウド環境でのCISベンチマークとゼロトラストの実践例
クラウド環境では、CISベンチマークとゼロトラストの組み合わせが効果的なセキュリティ対策となります。例えば、Azure環境ではMicrosoft Entra ID(旧Azure AD)のポリシー設定を強化し、CISベンチマークの推奨設定と連携させることで、ゼロトラストモデルを構築できます。また、AWSではIAM(Identity and Access Management)の細かなアクセス制御をCISベンチマークの推奨設定に沿って適用し、ゼロトラストの原則を実現することが可能です。
このように、CISベンチマークとゼロトラストを組み合わせることで、クラウド環境に適した強固なセキュリティモデルを構築できます。次のセクションでは、Azure環境におけるCISベンチマークの適用について詳しく解説します。
4. Azure環境でのCISベンチマーク適用

クラウドプラットフォームごとに特性が異なるため、CISベンチマークの適用も環境に応じて最適化する必要があります。特に、Azureは企業向けの利用が多く、Microsoftのセキュリティ機能とCISベンチマークを組み合わせることで、より強固なセキュリティを実現できます。ここでは、Azure向けCISベンチマークの特徴と適用ポイントについて解説します。
Azure向けCISベンチマークの特徴
Azure向けCISベンチマークは、Azure特有のセキュリティ機能を活かしながら、安全なクラウド運用を実現するためのガイドラインです。特に、Microsoft Entra ID(旧Azure AD)、Azure Security Center、ネットワーク制御、ストレージ暗号化など、Azure独自の機能に適した設定を提供しています。これにより、Azureを活用する企業が、CISの推奨するベストプラクティスに沿ったセキュリティ対策を効率的に導入できます。
Azure環境での適用ポイント(アイデンティティ管理、ネットワークセキュリティ、データ保護)
Azure環境でCISベンチマークを適用する際に特に重要なポイントは、以下の3つです。
- アイデンティティ管理:Microsoft Entra ID(旧Azure AD)の多要素認証(MFA)の有効化、アクセス制御の強化、最小権限の原則の適用などが推奨されます。
- ネットワークセキュリティ:Azure Firewall、NSG(ネットワークセキュリティグループ)を活用し、不必要なポートを制限することで、不正アクセスを防ぎます。
- データ保護:Azure Storageの暗号化を有効化し、ログの記録と監視を強化することで、機密データを安全に保管できます。
これらのポイントを適用することで、Azure環境でのセキュリティレベルを向上させ、クラウドのリスクを最小限に抑えることが可能です。
加えて、AzureではMicrosoft独自のベンチマークとして「Azure Security Benchmark」も提供されており、CISベンチマークと併用することで、ゼロトラストを意識した高度なセキュリティ構成が可能になります。両者の整合性を意識しながら適用することで、Microsoftクラウド環境に最適な対策を実現できます。
次のセクションでは、CISベンチマークの限界と補完すべき対策について詳しく説明します。
5. CISベンチマークの限界と補完すべき対策
CISベンチマークは、クラウド環境のセキュリティを向上させるための有効なガイドラインですが、適用するだけで完全なセキュリティが保証されるわけではありません。クラウド環境のセキュリティを強固にするためには、CISベンチマークを補完する追加の対策が必要です。ここでは、その理由と具体的な対策について解説します。
CISベンチマークの適用だけでは十分ではない理由
CISベンチマークは、主にシステムのセキュアな設定に関するベストプラクティスを提供しますが、リアルタイムの脅威検知やインシデント対応には対応していません。例えば、内部の脅威やゼロデイ攻撃、ランサムウェアなどの高度な攻撃には、CISベンチマークの適用だけでは十分な対策とは言えません。そのため、継続的な監視とインシデント対応の仕組みを導入することが重要です。
追加すべきセキュリティ対策(SOC、EDR、SIEM、ペネトレーションテストなど)
CISベンチマークを補完するために、以下のような追加のセキュリティ対策が推奨されます。
- SOC(Security Operation Center):24時間体制でネットワークの脅威を監視し、インシデント対応を行う
- EDR(Endpoint Detection and Response):エンドポイント上の不審な活動を検知し、迅速な対応を可能にする
- SIEM(Security Information and Event Management):ログを統合管理し、異常なアクティビティを検知する
- ペネトレーションテスト:攻撃者視点で脆弱性を特定し、実際の攻撃に対する耐性を評価する
これらの対策を導入することで、CISベンチマークではカバーしきれない部分を補い、より強固なセキュリティ対策を実現できます。
組織のセキュリティポリシーとの統合
CISベンチマークは、あくまで技術的なセキュリティ設定の指針であり、企業のセキュリティポリシーと統合することで最大限の効果を発揮します。例えば、ゼロトラストの原則を採用し、アクセス管理やデータ保護のポリシーをCISベンチマークと組み合わせて適用することで、セキュリティをさらに強化できます。
CISベンチマークを基本としつつ、組織全体のリスク管理戦略と連携させることが、クラウド環境における最適なセキュリティ対策の実現につながります。
なお、Microsoft環境においては、「Microsoft Purview コンプライアンス マネージャー」を使うことで、CISベンチマークやAzure Security Benchmarkなどの各種基準への準拠状況を継続的に評価・管理する仕組みが整えられます。これにより、ポリシーの運用と技術的な実装を連携させた、実践的なセキュリティ管理が可能になります。
Azureを利用している場合は、「Azure Policy」を活用することで、CISベンチマークを含む各種セキュリティポリシーの準拠状況を自動的にチェックし、必要に応じて設定を強制的に適用することが可能です。これにより、クラウド環境全体のセキュリティルールの一貫性と継続的な適用が実現できます。
次のセクションでは、CISベンチマーク適用のメリットと課題について解説します。
6. CISベンチマーク適用のメリットと課題
CISベンチマークの適用は、クラウド環境のセキュリティを標準化し、継続的なセキュリティ管理を強化する上で大きなメリットがあります。しかし、一方で適用時の課題も存在するため、それを理解し、適切な対策を講じることが重要です。
クラウド環境におけるセキュリティの標準化
クラウド環境では、サービスごとに異なる設定が求められるため、統一されたセキュリティ基準を適用することが難しい場合があります。CISベンチマークを活用することで、Azure、AWS、Google Cloudなどの主要クラウドプラットフォームに対し、一貫したセキュリティ基準を導入できるため、組織全体でのセキュリティ管理が容易になります。
運用の自動化と継続的なセキュリティ管理
CISベンチマークは手動で適用することも可能ですが、大規模な環境では自動化が必須となります。例えば、CIS-CAT Proやクラウドネイティブなセキュリティツールを活用することで、設定の適合状況を自動診断し、継続的なセキュリティ監視を実現できます。これにより、人的ミスを減らし、最新のセキュリティ基準に基づいた運用が可能となります。
適用時の課題と解決策
CISベンチマークの適用には、設定変更による業務影響、既存システムとの互換性問題、運用負荷の増加などの課題が生じる可能性があります。これを解決するために、適用前に影響を分析し、テスト環境での検証を行うことが推奨されます。また、全社的なセキュリティポリシーと統合し、段階的に適用することでスムーズな導入が可能となります。
次のセクションでは、CISベンチマークとゼロトラストを組み合わせた最適なセキュリティ対策についてまとめます。
7. まとめ
クラウド環境におけるセキュリティ対策は、適切な設定管理と継続的な監視が不可欠です。CISベンチマークは、クラウド特有のリスクを軽減するための標準化されたベストプラクティスを提供し、企業や組織が安全な運用を維持するための指針となります。本記事で解説したポイントを活かし、クラウド環境のセキュリティ強化に取り組みましょう。
クラウド環境のセキュリティ標準化にはCISベンチマークが有効
クラウド環境では、オンプレミスと異なり、設定ミスが直接外部からの攻撃にさらされるリスクが高いため、CISベンチマークを適用し、セキュアな設定を標準化することが重要です。AzureやAWS、Google Cloudといった主要クラウドサービス向けに最適化されたベンチマークを活用することで、プラットフォームごとのセキュリティ対策を統一し、効果的なリスク管理が可能になります。
ゼロトラストや他のセキュリティ対策と組み合わせることで、より強固なセキュリティを実現
CISベンチマークは、クラウド環境のセキュリティを強化する強力な手段ですが、単独で完全なセキュリティを保証するものではありません。ゼロトラストの原則を採用し、アクセス管理の強化や多要素認証(MFA)の適用、EDRやSIEMなどの追加対策を組み合わせることで、より堅牢なセキュリティ環境を構築できます。
CISベンチマークを基盤とし、組織のセキュリティポリシーに統合することで、より実践的で効果的なクラウドセキュリティ戦略を実現しましょう。
以上、最後までご愛読いただき
ありがとうございました。
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